造血細胞移植センター
沿革
当院と骨髄移植との関わりは古く、1960年代の半ばに、ユーゴスラビアで発生した放射能事故で被ばくした6人の科学者を、フランスのMathe博士が骨髄移植により救命したという報告を背景に、芳賀圭五当院元院長が幾人かの血液難病患者に骨髄移植を実施した頃から始まっています。当時はこの病院でも移植の基礎実験のためのマウスが飼育されていたということです。
1970年代に入り骨髄移植の成功に必要な条件が明らかになり、それらを取り入れたいわゆる近代的骨髄移植を行われるようになり、1977年に当院の第1例目の骨髄移植が実施されて以来、現在まで行われた移植数は内科約1,500件、小児科約700件におよび、最近では年間約80件の移植をセンターとして実施しています。
1991年に開設された骨髄移植センターは、2006年東棟8階に21床の無菌治療室を持つ造血細胞移植センターとして拡充され、2009年には小児医療センター内に2床の無菌室を持つに至り、西田徹也センター長、濱麻人副センター長を中心に、血液内科と小児腫瘍科が協力体制を取り、多職種によるチーム医療が展開されています。
当センターは日本骨髄バンク(骨髄移植推進財団)移植・採取認定病院であり、海外骨髄バンクからの移植、HLA一部不適合非血縁者間骨髄移植、骨髄バンクドナーからのドナーリンパ球輸注療法(DLI)実施認定施設であるとともに、日本さい帯血バンクネットワーク加盟施設です。また当センターは以下の研究・学会活動に参画しています。2013年度には厚生労働省より、造血幹細胞移植推進拠点病院に認定されました。
その役割は、専門的な医師や医療従事者の育成および医療従事者の育成、および地域の医師などを対象とした研修を行う人材育成事業、骨髄採取までの時間短縮を支援する移植コーディネーターの配置や地域の医療従事者も参画するカンファレンスや勉強会の開催を行うコーディネート支援事業、地域の医療機関の要請に応じて専門医を派遣する地域連携事業の3つとなっています。また当院で多職種で取り組んできた、移植後の患者さんのQOL向上への取り組み事業も2015年度より組み込まれました。
これに伴い、医師、看護師、理学療法士などがさまざまな研修会を行っています。
また当院は小寺良尚元部長の時代から17年間にわたり、厚生労働省がん研究、厚生労働科学研究の班長施設として、日本の造血幹細胞移植の発展に取り組んできました。
チーム医療、長期フォローアップ外来
内科、小児科、病理部、歯科をはじめとした他科全科、看護部、薬剤部、リハビリテーション科部、放射線科部、検査部、輸血部、中央手術室、栄養課ならびに事務部から成る造血細胞移植チームにより、病院全部署の協力と理解を得て運営されています。
また、当院には専属の移植コーディネーターが2人おり、患者さんが適切に移植を受けられるように病院間の調整を行ったり、バンクドナーや血縁者ドナーが安心して採取を行えるように精神面も含めたサポート業務を行っています。また移植を受けた後、血液疾患は治癒した患者さんを対象として長期フォローアップ外来を開いています。移植後の患者さん特有の注意すべき点についてフォローするとともに、一部の身体的、精神的、社会的支援が必要な患者さんを支援します。また全国に先駆けて「移植後患者手帳」を作成しました。ここには、患者さんの受けた治療歴やドナーさんや患者さんの血液型の情報が記載されており、何十年後の将来、万が一、別の病気になり抗がん剤治療を受けたり、輸血を受ける場合に必要な情報が載っています。これらの情報を詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
主な医療設備
東棟8階の造血細胞移植センター45床は病棟全体にHEPAフィルターを通した空気が流れ、その中に21床の無菌治療室があります。小児センターにも2床の無菌治療室があり、全体で23床で移植を行っています。
病棟の廊下はラウンド型をしており、患者さんが運動しやすい設計となっています。他にも成分採血室、全身放射線照射用ライナック、末梢血幹細胞採取保存システムなどがあります。
長期入院患者さんご家族のための宿泊施設
徒歩3分の範囲内に宿泊施設「めばえ」があります。
スタッフ
血液内科:西田徹也 他
小児血液腫瘍科:濱麻人、吉田奈央 他
外来診療など
血液内科外来は部長を中心とする新患外来、入院中の主治医が行うフォローアップ外来、先述した長期フォローアップ外来のほか、GVHD外来があります。当院はセカンドオピニオン外来を積極的に行っており、西田部長、濱部長、吉田部長が担当しています。
治療方法、成績
血液内科、小児血液腫瘍科の入院患者数は併せて常時100人を超えています。
内訳は白血病が約半数、リンパ腫、多発性骨髄腫などを併せると血液系悪性腫瘍が80%を占め、その他が再生不良性貧血、血小板減少性紫斑病および血液凝固異常症などです。
造血幹細胞移植は白血病や再生不良性貧血で他の治療では治癒が望めない症例に対しHLA遺伝的適合同胞、HLA表現形一致非血縁者(日本、米国、台湾その他の国の骨髄バンクドナー)、HLA一部不適合血縁者あるいは臍帯血の順に造血幹細胞提供者を選び、至適移植時期を厳密に検討のうえ、患者さんならびにご家族の同意を得て実施しています。
その方法は移植2週間前から無菌治療室で抗生物質を服用するなどして腸内無菌化を開始し、1週間前から大量化学、放射線療法による白血病細胞の根絶および(または)拒絶予防を開始します。無菌治療室入室期間は移植幹細胞が生着して血液学的回復が得られるまでの約2~3週間です。
その成績は同胞間骨髄移植の場合、急性白血病第一寛解期移植の無病生存率が病気の種類や患者さんの年齢にもよりますが50%〜75%、第二寛解期以降の寛解期で50%程度となっています。
非血縁者間造血幹細胞移植では重症の移植片対宿主病(GVHD)やTMAなどの合併症が約10~20%に発症し予後に影響しますが、最近では移植技術の向上により頻度は減ってきており、急性白血病症例の無病生存率は同胞間移植と変わらなくなってきています。同種末梢血幹細胞移植、臍帯血移植の成績も良好で、患者さんやドナーさんのご希望に応じた移植法、採取法を選択できます。
最近では移植後患者さんの生活の質(QOL)の向上を目指すためのいくつかの取り組みを行っています。まずは移植入院当初から退院後も含めた期間における筋力低下予防あるいは身体機能維持や精神的安定を目的として、移植患者さん全員に対するリハビリを導入しています。患者さんが個人でも取り組めるようパンフレットやDVDなどさまざまな工夫を行っています。
さらにチーム医療による移植への取り組みとして、月に1回の多職種による移植合同カンファレンスをおこなっています。医師、病棟看護師、移植コーディネーター、皮膚科、口腔外科、リハビリ科、臨床心理士、栄養士を中心に、移植後患者さんの症例検討会を行うことで、情報交換を密に行い、臨床の現場に活かすよう努めています。