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心臓血管外科

手術件数の推移と成績(2017.8.23更新)

手術件数の推移

手術件数の推移グラフ

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016
虚血性心疾患 143 142 130 132 143 108 141 150
弁膜症 116 105 133 133 168 167 162 215
胸部大動脈 68 52 75 76 61 88 104 95
先天性 14 5 6 7 15 19 13 14
その他 3 5 5 3 7 4 14 8
総数 344 309 349 351 394 386 434 482

虚血性心疾患成績

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015
単独CABG 126 129 124 128 133 97 123
心筋梗塞合併症に対する手術 17 13 6 4 10 11 18

弁膜症成績

  2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015
僧帽弁 54 45 51 53 77 73 59
大動脈弁 45 53 68 59 69 82 74
連合弁膜症、他 17 6 12 21 23 12 29

胸部大動脈瘤成績

  2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015
真性瘤 35 25 40 36 46 68 65
大動脈解離 33 27 35 40 15 20 39

各種成人心臓手術の説明と当科の特徴

1.冠状動脈バイパス手術

心臓の血管に血流路を追加する手術です。

 狭心症や心筋梗塞の患者さんが対象となります。心臓の筋肉に血液を送る冠状動脈の硬化により血液が不足した部分に、自分の体の他の部分からもらった血管をつなぎ血流を良くする手術です。2012年2月には天皇陛下もこの手術をお受けになりました。

 この手術は、外科医の欲目でなく本当に元気になって痛みや苦しさが無くなって動ける様になる方が多いと実感します。

 循環器内科医が行う、風船治療、ステント治療と異なり悪くなった部分を直接的に広げる代わりに、そこを飛び越えて血液を流します。

 3枝病変(主要な冠状動脈の3方向の枝全てに動脈硬化がある)に対して薬物療法と比較してバイパス手術は予後の改善(寿命を伸ばす)が統計調査によって証明されています。しかし同じ3枝病変に対してステント治療が薬物治療より優れているかどうかはまだはっきりしていません。ステント治療は特に急性心筋梗塞、切迫梗塞の急性期治療成績を明らかに改善した功績があります。

 バイパス手術はさらに長期予後の改善に有効な治療であり得意分野が異なります。

当院の手術の特徴

各患者さんの条件に合ったバイパスのデザインをします

 先々代主任部長の早瀬医師の時代、20年以上前から動脈グラフト(バイパスに使用する血管をグラフトと呼びます)を先駆けて使用し長期多数例の実績から各グラフトの特徴を熟知しています。バイパス手術で、最も大事な事はグラフトのデザイン、使い分けです。単純に体外循環を使わなければ良い手術、動脈を使えば良い手術ではありません。

 例えば、「両側内胸動脈と胃大網動脈を出来るだけ使用する」という方針を全部の患者さんに当てはめようとすれば必ずそれに適さない条件の患者さんが不利益を被ります。一つのパターンで、何でも解決しようとしても上手くいかないのは医療に限らず当然の事ではないでしょうか。左右の内胸動脈、腕の動脈、胃の動脈、下肢の静脈を各患者さんの条件に合わせて使用します。一般に長期開存に優れるのは動脈グラフトですが、あえて静脈を使った方が良い場合もかなりあります。

オフポンプCABG手術を原則としますが、オンポンプ手術との両方に習熟しています

 体外循環は、弁膜症手術の場合には必ず使いますが、これがそんなに悪いものであれば弁膜症の手術が出来なくなってしまいます。体外循環を使うと脳梗塞が起きるとか、インターネットでいろいろ書いてあるのを弁膜症の患者さんが見たら不安になってしまいますね。

 体外循環の進歩が複雑な心臓手術や大動脈瘤手術を可能にしてきたのは事実であり、むやみに恐れるべきものではありません。

 実際は、「動脈硬化の特に強い人の場合体外循環の悪影響が出やすい」、「長時間使用は好ましくない」のであり、そうでない場合はそれほど心配する事はありません。そもそも体外循環を使わなくても動脈硬化の酷い人は術後の一時的なボケ症状や脳梗塞は起こりやすいので注意が必要です。

 実のところ当院では2010年1月以降は余程状態の悪い患者さん以外は体外循環を使わないオフポンプ手術を標準としており、結果的に単独冠動脈バイパスはほぼ100%オフポンプ手術です。

 弁膜症との同時手術で体外循環を使用する場合は、出来るだけ体外循環時間を短くする様にしています。 オンポンプ手術は、オフポンプに比べて決して易しいわけではなく、手早く吻合を終える技術が無いと長時間体外循環となり患者さんへの悪影響が出やすくなります。 予定手術の入院死亡率は、1%以下です。

左室瘤、左室縮小形成術

 心筋梗塞により左心室の一部、あるいは全体が大きく膨らんで心不全になる事があります。膨らんだ心臓の一部を切って縮めて心臓を元の形に近く戻してやる事で心不全を改善する手術です。私達はいままで60人以上の方に行っています。

 この手術の場合、ドール先生の方法、バチスタ先生の方法、さらにそれらの変法も心臓を切って縮める事自体は大きな針で縫うだけの簡単な手技です。問題はどのような患者さんに行うかという「手術適応」の決め方です。 虚血性の心拡大の場合、通常は心臓の前側の壁を縮めます。この時少なくとも回旋枝または、右冠動脈の領域のいずれかが梗塞でなく健常に近い状態で残っている事が必要です。

 良い適応の場合心不全がかなり劇的に改善します。しかし場合によっては縮小せず、血管のバイパス手術だけにしておいた方がかえって良い事もあります。当院では当初より上記の原則に従い過去15年左室縮小形成を行って来ましたが、数年前心臓の拡大だけを条件にやみくもにこの手術を行っても無効であるとの大規模試験の結果(STICHトライアル)が示されました。この結果について左室縮小手術を推進していた外科医からは批判も多い試験ですが、試験のデザインからすれば当然の結果が出たと私は考えています。ただし、このトライアルの結果を、左室形成手術自体の効果が否定された様に誤解してはなりません。左室形成が有効な患者さんは存在しますが、それは従来考えられていたよりも厳密に見極めなければならないという事です。

バイパス手術について相談する

2.弁膜症手術

 心臓がポンプとして働くために、心臓の中には弁が4つ入っています。その中で体に血液を送り出す左心室の入り口と出口にある僧帽弁(そうぼうべん)と大動脈弁(だいどうみゃくべん)、さらに三尖弁が主に手術の対象となります。

僧帽弁膜症

 僧帽弁逆流に対しては弁の硬化を伴った場合以外は基本的に弁の修理(弁形成術)が可能です。弁の一部がまくれ返って逆流が起きる病態(プロラプス prolapse)に対する手術はすでに確立されており比較的容易です。病変部分を切り取る方法と、ゴアテックス糸の人工腱索を付ける方法を基本としています。さらに弁輪部の補強のため人工弁輪(芯の入った化学繊維のバンドの様なもの)を縫いつけます。

 硬い小さな人工弁輪(リング)を付けると逆流は止まりやすくなりますが術後の超音波検査で見ると出来上がりが不恰好となります。

 小さすぎない弁輪補強バンドまたはリングを用いて、あまり弁輪縫縮に頼らない出来上がりの美しい形成を心がけています。

 当院では従来形成が困難とされた弁が突っ張って動きが制限されたり、広範に破壊された場合も自己心膜を使った新しい形成法で手術が可能となっています。

 僧帽弁が硬く狭くなる「僧帽弁狭窄」の場合は基本的に人工弁を用いた弁置換となります。

 人工弁には二つのタイプがあります。牛の心膜やブタ大動脈弁などを用いた生体弁と、セラミックカーボンで出来た機械弁です。

 僧帽弁の場合は70歳以上、大動脈弁の場合は65歳以上で生体弁をお薦めしていますが、事前に弁の選択は患者さんと話し合っています。現在、僧帽弁膜症の殆どを数センチの皮膚切開で内視鏡補助下に行うMICS(ミックス)手術で行っています。

 ミックス僧帽弁手術は、右の乳房の横辺りの皮膚を3~5cm程切開します。術後は、特に女性の場合ほとんど創が正面から見えません。

大動脈弁膜症

 人工弁を用いた弁置換手術を基本としています。近年は高齢者の大動脈弁狭窄症が増加しています。マルファン症候群による弁周辺の拡大(大動脈基部拡張症)に起因する大動脈弁逆流には人工血管置換と弁の形成(David手術)を行っています。また、上行大動脈の拡張に伴う大動脈弁逆流に対しても形成手術を行っています。この二つは上手くいきやすい手術です。 若年者の二尖弁の場合も形成は比較的容易です。ただし、大動脈弁位の場合牛心膜やブタ大動脈弁を用いた生体弁による弁置換が極めて良い遠隔成績を示す事がすでに証明されています。 弁形成を行うにしても生体弁の成績を凌駕できる方法の確立が必要です。 当院は教育病院ではありますが大学や研究機関ではありませんので、あまり実験的な治療を行うのではなく患者さんにとって最も妥当と思われる方法を洗練された技術で提供すべき立場にあると考えます。

 Bentall(ベントール)手術に生体弁を用いる、いわゆるBio-Bentall手術も再弁置換が容易な方法を考案して行っています。出来るだけ弁温存手術を行う方針ではありますが、弁の変形がある時に無理に形成するよりは生体弁で15年保たせて再弁置換するほうが良い場合もあるという考えです。

 なお現在単純な大動脈弁置換の多くを、数センチの皮膚切開で行うMICS手術で行っています。経カテーテル的大動脈弁植込み術(TAVI、TAVR)は2015年2月に施設認定を取得し開始しました(TAVIについて)。

弁膜症について相談する

MICS(ミックス)手術 、創が小さく痛みの軽い心臓手術、胸を開けない心臓手術

 指の長さ以下の創から心臓手術が出来ると言ったら信じますか?当院ではこの手術を2010年以降、2016年12月までに530人以上の方に行いました。2014年10月にはMICS手術に関する日本胸部外科学会卒後教育セミナー、アドバンストコースの講師を私、伊藤が務めました。2016年7月、日本低侵襲心臓手術学会第1回定期学術集会JAPANミックスサミットを当科が当番主催しました。2016年10月には、ヨーロッパ胸部外科学会で、内視鏡下僧帽弁MICSのオーラルプレゼンテーションをしました。

 一般に時間がかかるのが欠点とされてきましたが、単純な僧帽弁形成のみの手術では3時間前後まで手術時間が短縮し、通常の方法と遜色無くなりました。心臓手術後の患者さんの傷は通常、胸の真ん中、首の少し下からみぞおちまで25cmほどの縦一文字の傷となります。手術の際にはその下にある胸骨(きょうこつ)という平たいカマボコ板の様な骨を半分に切って広げると心臓から大動脈まで一目で見渡せる良好な視野が得られあらゆる種類の心臓手術が可能となります。これは標準的方法であり、当院でも基本的にはこの方法で手術をします。しかしこのアプローチでは目立つ場所に大きな傷が出来る事。骨を大きく切るため骨髄からの出血や骨の癒合不全、さらには骨の感染(胸骨骨髄炎)という命に関わる危険な合併症が生じる場合が稀ですがあります。

 当院では弁膜症手術(大動脈弁置換、僧帽弁形成/置換)の場合最近は3cmから7cmほどの小さな傷で、胸骨を切らずに手術を行っています。この手術方法はMICS(ミックス)Minimally invasive cardiac surgery,と呼ばれています。写真1は僧帽弁形成手術後の患者さん、写真2a,2bは大動脈弁置換の患者さんものです。僧帽弁手術の場合は右乳房の少し下を数センチ切り肋骨の間の隙間から手術をします。女性の僧帽弁手術の場合創が乳房に隠れ腕を上げない限り殆ど判りません。青い○で囲った部分が創です。心臓を手術したとはにわかに信じがたい創ではないでしょうか?

 3cmの創から行う僧帽弁形成手術(動画1)、右脇の下から行う大動脈弁置換手術(動画2)をご覧ください。手術シーンが映っていますので、その様な画像が苦手の方はご注意ください。

 大動脈弁の場合、現在他院(世界中でも)でMICSとして行われているのは指が大動脈弁に直接届く範囲の前胸部に創を作るので結局正面に見えてしまいます。当院で開発した(下記論文14)内視鏡補助で行う新しい方法では脇の下を切りますので、写真2aの様に正面からは創は事実上ほとんど判らないと言えます。青の○の部分に創があります。側面で、さらに腕を上げてようやく創が判ります(写真2b)。国内で他に2~3の施設でこの方法を採用し始めています。

 MICS手術は、第一には女性の方で創の見栄えを気にする方には間違いなくメリットがあります。さらに高齢で骨が弱くなっている方にも、胸骨を切らないので骨の治りが悪いなどの問題が起きません。

 傷が小さい事自体が術後の回復を早める治療的メリットもありますので、MICSは男性も含め全ての成人が対象となります。

 さて、デメリットは当然予想される様に術野が制限され手術に必要とされる技術的ハードルが高くなります。また。体外循環技術にも工夫が必要となります。術野が深くなり指もまったく届きませんので、専用の細長い手術器具や内視鏡カメラも利用して手術を行います。

MICS(みっくす)手術は難しい?

 超絶な技巧を要すわけではありませんが、体外循環等のノウハウと慣れが必要です。

 私はいままで3000人程の心臓手術を執刀していますがMICS手術を始める前には器具に慣れるためそれなりの練習を要しました。難しいか簡単かと言えば難しい部類に入りますが、それは主に今までの方法と手術環境が違うため馴染みが無い事によります。僧帽弁の場合、正中切開よりもMICSの方が弁を真正面から見る事が出来、さらに内視鏡の超近接視を用いて詳細な観察が可能ですのでかえってやり易い面もあります。さてあなたが患者さんの場合、今このページを読んで主治医の先生にMICS手術の事を聞いたら場合によると「難しい心臓の手術だから、大きな創でやった方が良い」という返事が返ってくるかもしれません。 確かに心臓の手術は色々落とし穴があって決して簡単なものではありませんし、慣れ親しんだ事を変えるのは大変ですのでそのように答える先生の気持ちも判ります。しかし、大切開から小切開、内視鏡、さらにはカテーテル治療へと患者さんの痛みや負担が少ない方法に向かうのは医学の基本的な方向性です。心臓外科だけが今まで蚊帳の外にいました。胸骨正中切開は標準的方法ですが少なくとも「創が目立たない様に手術をして欲しい」という患者さんの希望があるなら、それに応えたいと私たちは考えています。ドイツでは僧帽弁手術の半数以上にMICSが行われています。手術料、患者さんの金銭的負担は当院では高価な手術ロボット(ダビンチ)を使いませんので通常の開胸手術の場合と同等です。冠動脈バイパス手術の場合や大動脈瘤手術の場合などは標準的な胸骨正中切開をします。

 単弁の弁膜症でも個々の患者さんの条件に応じて、MICSよりも通常の切開の方が良い場合もありますので個別にご相談ください。特に、大動脈、足の動脈の硬化がある場合は正中切開の方が適しています。

ロボット(ダビンチ)手術とMICS手術の違いは?

 最近時々患者さんから聞かれるのでお答えします。ロボット手術と当院で行っている内視鏡下僧帽弁手術はどちらも胸を開けず、内視鏡カメラで心臓を見る点で似ています。創も同程度か、かえって内視鏡MICSの方が創の数が少なくなります。ともに開胸器を使わないので術後の痛みは相当軽く済みます。手術ロボット、ダビンチは現代テクノロジーの結晶であり、通常の内視鏡器具ではとうてい不可能な自由で繊細な動きが出来ます。その代り、道具の出し入れに助手による操作が多く必要であり実際には余分な手間もかかります。2016年現在心臓手術に対するダビンチの使用は国の薬事承認が得られましたが、いまだ高額の自己負担が必要な様です。MICSは普通の保険診療です。 大動脈弁置換は切り取る弁が硬いのでロボットでは出来ませんがMICSなら可能です。当院の内視鏡下僧帽弁手術は、極めて小さな創から可能なので、他府県からも多くの患者さんが来院されています。

その他の疾患に対するMICS手術、ASD、左房粘液種に対するMICS手術

 先天性の心房中隔欠損症(ASD)、心室中隔欠損症(VSD、perimembranous type)、左房粘液種切除にもMICS手術は可能です。ASDの場合、小児であまり体格が小さいと難しいため概ね身長140cm以上ぐらいから可能です。小学校高学年以上~成人を対象に行っています。ASDの多くは現在手術でなくカテーテル経由の栓子(アンプラッツァー)により小児科、循環器内科にて治療されています。これで治ればそれに越した事はありません。しかし3割程の方で欠損孔の形態が栓子による閉鎖に適合せず、手術が必要となります。その場合MICS技術を用いて行うと特に女子児童の場合胸骨正中切開よりも圧倒的に創が目立ちにくいメリットがあります。当院の内視鏡下MICSの場合3cmの皮膚切開で済みます。もはや、ASD手術を正中切開で受ける理由は何も無いと考えています。

 左房粘液種というのは、心臓腫瘍の大半を占める病気で左心房の中に出来るゼリー状の良性腫瘍です。そのため、同じく左心房を開ける僧帽弁MICSの技術を応用して数センチの創で切除可能です。(伊藤)

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3.胸部大動脈の手術

真性動脈瘤(しんせいどうみゃくりゅう)

 主に動脈硬化、動脈壁の変性により大動脈の一部がこぶ状に膨らみ放置すると破裂から死亡に至る病気です。通常痛みなどの自覚症状は出にくいのでレントゲンなどで偶然見つかる事が多くみられます。声のかすれが初発症状の事も良くあります。大動脈弓部(だいどうみゃくきゅうぶ)という大動脈が首の下で180度Uターンする部分が好発部位です。瘤の部分を含めて大動脈弓部を人工血管で置換します。弓部からは脳に至る血管が起始しているため手術中の脳保護が必要となります。当科では中等度低体温下に頸部の血管に冷却血液を送る方法(脳分離体外循環)を用いて手術を行っています。麻酔時間を除いた正味の手術時間は通常4時間から5時間程度です。胸部大動脈瘤の中では定型的手術ですので、待機手術の死亡は5%以下です。上行大動脈や下行大動脈の瘤の場合も、瘤の出来た部位を人工血管で置き換える手術を行います。破裂例の緊急手術も年間数例あります。破裂していても一旦小康状態になった状態で手術できればおおむね救命可能です。しかし術前心停止に陥ってしまった場合など、なかなか救命は困難です。したがって破裂する前に手術をするのが望ましいのですが、動脈瘤は仮に明日破裂する運命にあっても破裂するまでは痛くも苦しくも無いのが心臓の病気との大きな違いです。現在、開胸手術でなくステントグラフトで治療可能な場合は出来るだけそうしています。

急性大動脈解離(きゅうせいだいどうみゃくかいり)

 大動脈の壁が突然裂けて外側の薄皮一枚(外膜)だけで破裂を免れている状態です。

 極めて珍しい病気ではなく、時々芸能人がこの病気で手術を受けたり、手術が間に合わず亡くなったりしたのが報道されます。裂けている範囲により二つのタイプがあります。心臓に近い部分まで裂けている場合(A型解離)急性期に高率に破裂、死亡に至るため一刻も早い手術が必要となります。破裂の危険の高い部分を人工血管で取り替えます。すでに激しく破裂している場合は救命がかなり困難となります。24時間当直体制で速やかに手術対応しています。独自の手術マニュアルを作成し、学会中などスタッフが手薄な時も間違いのない手術が出来るようにしています。手術室がどうしても一杯の場合を除き、他院からの手術依頼は断りません。胸部下行大動脈だけが裂けているタイプ(Ⅲ型、B型)は通常手術をせずに安静により固まるのを待ちます。最近では、B型解離に対して亜急性期、慢性期にステントグラフト治療を行っています。

TEVAR 胸部ステントグラフト内挿術

 バネ付きの人工血管を大動脈内で膨らませ内貼りし、動脈瘤の破裂を防ぐ治療です。
 ステントグラフトは、通常は足の付け根の血管を出して、その血管から金属の枠(ステント)つきの人工血管を大動脈まで入れていきます。お腹を切ったり、胸を開けたりする必要がないので、患者さんの負担が少なく、術後数日から1週間程度で退院する事ができます。
 胸部ステントグラフトは2008年に保険適応が承認され、商品化されたものが使えるようになりました。
 当初は開胸手術が困難なハイリスク症例のみに行われていましたが、長期予後も比較的良いことが明らかとなってきました。 そのため手術が可能な方でも、解剖学的にステントグラフトで治療できそうであれば積極的に適応するようになりました。現在では胸部大動脈手術の半数程がステントグラフト治療となってきています。
 また、亜急性期や慢性期の解離性大動脈瘤に対しても、ステントグラフトを留置することが多くなっています。
 主に解剖学的な条件によって、全ての患者さんに対して、ステントグラフトが出来るわけではなく、レントゲンを見ながら遠隔操作で治療を行いますので、不確実な面もあります。当院では、開胸手術、ステントグラフトの症例数も多く、両方の治療に関して、経験が豊富であり、個々の患者さんに最も適した治療を提案できると考えています。

提供:Cook Japan

胸部ステントグラフト症例数

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4.TAVI(カテーテル大動脈弁植え込み術)

 手術に代わる弁膜症治療、細い管を通して人工弁を植え込みます。

大動脈弁狭窄症は、心臓の出口である大動脈弁が硬くなり、心臓(左心室)から血液を駆出するのが困難となる病態です。その自然予後は悪く、従来の手術は人工心肺を用いて、心臓を止めて人工弁を縫い付ける大動脈弁置換術しかありませんでした。

TAVIは足の付け根、あるいは小切開開胸での心尖部からのアプローチにより、レントゲンを見ながら、大動脈弁の位置に経カテーテル的に人工弁を留置する手術です。人工心肺を使用したり、心臓を止める必要も無く、創も数cm程度と非常に小さいため、患者さんの体の負担が非常に少ないのが特徴です。

数年前から欧米で始められたTAVIはすでに世界60カ国で行われており、90000例を超える実績があります。

日本でも2013年秋に承認され、認定施設で行えるようになりました。

当院も2014年夏にハイブリッド手術室を稼働させ、2015年2月に認定施設を取得し治療を始めました。2016年末までに、41例施行し、全例成功しています。

対象は、硬化による大動脈弁狭窄症で、従来の大動脈弁置換術がハイリスクと思われる症例です。80歳台後半など高齢の患者さんや他の合併症があったり、以前の心臓手術の既往などがある患者さんが当面の対象と思われますが、治療そのものは非常に低侵襲であり、中期的な予後も大動脈弁置換術後と遜色ないことがわかってきています。

現状では透析中の患者さんに関しては、保険適応外となっています。また、解剖学的な条件もあり、適応に関しては、最終的にハートチームカンファレンスで決定します。

患者さんによって、上記、MICS手術や正中切開での手術が良い場合もありますが、いずれにしても患者さん1人1人に一番良い治療を検討していきますので、当院心臓血管外科、あるいは循環器内科外来でご相談ください。

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5.術者と担当医について

 心臓手術は外科手術の中でも技術の差が結果に現れ易いと言われています。手術の技術と、術者、さらに手術結果との関連について当科の考え方を説明いたします。

1.術者の選定について

 術者の選定は基本的に手術の難易度に応じて決めています。難易度の比較的高い場合は部長、副部長が術者となります。難易度が中等度の場合は医員が術者となります。難易度の低い手術は心臓外科にはありません。

 医員が術者の場合も、部長または副部長が第一助手となり手術を監督指導しています。一見、全ての手術を最も習熟した術者が行う方が成績が良くなると思われるかもしれません。また、自分の手術は若い医者ではなく経験を積んだ医者にやって欲しいと思うのも良く理解出来ます。

 しかし、特定の医師だけが術者となり他の者が助手ばかりで技術が全く身についていない場合、チームの総合力が問われる本当に難しい手術や緊急時への対応力は低くなり施設の治療成績が低下します。また、私はいままで3000人弱の心臓手術を術者として執刀していますが、当然ながら私の1例目、2例目、10例目の手術を受けて下さった患者さんが居るわけです。その頃は当然、当時の上司の監督の下に手術をしていました。

 言いたい事はもう判ると思いますが、ベテラン心臓外科医は急に湧いてくるのではなく連綿とした技術の伝承の元でしか生まれないのです。若手医師が執刀するのと、私が執刀するのでは全く正直に申し上げると手術時間も心臓を止めている時間もそれなりに違います。監督しているから同じ手術が若手でも出来るとは申しません。しかし、これは社会として心臓外科の技術を伝承していくために必要なことであり、現在手術を受ける皆さんは過去に心臓手術を受けた患者さんのおかげで手術を受けられるのです。もし私の手術を受けてお元気になられたら、私ではなく30年前に私の手術を受けてくれた患者さんに感謝して下さい。また、今手術を受ける患者さんは同時に未来の患者さんを救う事にもなるでしょう。一方、修練中の医者が手術をするのは当人が将来的に指導医になって未来の患者さんに還元していく心構えと、さらに素養があって初めて許されるものと考えます。あいまいな動機の者はそもそも当科では採用しませんので、その点はご理解いただきたいと思います。

 「日本で手術をさせてもらえなかったから海外に雄飛してDr○○の下で何百例の手術をさせてもらって帰国した」という心臓外科医のロールモデルは昔からあり、それは賞賛されるべきキャリアですがそろそろ日本も若手医師の教育システムを体系化すべき時期と思います。国も本腰を入れ始めています。1年延期となりましたが、2018年春から国が関与した新専門医制度が発足します。修練医の募集は来年からです。この制度の下では修練医による一定数の執刀機会が事実上義務化されると思われます。そうは言っても、今後心臓外科研修を志望する先生や学生さんは、自動車学校に入る様なつもりでは困ります。黙っていても決まった数の手術をさせてもらえる程世の中甘くありません。高度な教育と、誰でもが受けられる教育は相反します。適性のある人を早めに選別していく制度設計が同時に必要なのですが、現在の新制度案を見る限り抜け落ちているのが非常に気になります。これに関しては各地の専門医修練カリキュラムの中で、独自に選別の仕組みが導入されると思います。

2.術者と手術成績、合併症の関連について

 難易度が中等度の手術の場合術者が若手であっても特に結果が悪くなる事はありません。実際、正中切開による一箇所の人工弁置換の手術は半分程度またはそれ以上部長以外が術者となり、私は助手として手術に入ったりして厳しく指導していますが上記に示した様に手術成績は良好です。なお、心臓手術には術後の肺炎や、まれな突発的な合併症など、手術の技術とあまり関係なくある頻度で起こりうる合併症もあります。こういうものは、誰が術者であっても、もちろん私が執刀した場合でも起きる時には起きます。一方、難しい手術の場合術者の技術の差がかなり結果を左右します。したがって、そのような手術は部長、または副部長が執刀医となります。

3.患者さんによる術者の指定について

 手術の難度により上記の事情で部長、副部長以外が執刀予定医となる事があります。しかし、命がかかった手術ですから「とにかく自分の手術は一番経験のある医者に手術をしてほしい」と考えるのももっともです。その場合は変に遠慮、やせ我慢、ええかっこしいをせず初診時にはっきり希望をおっしゃって下さい。医者選びの本にも、「医者に今まで何例経験があるか聞いて1000人ぐらい手術している医者の手術を受けなさい」と書いてあります。これを全員がやったら20年後にどうなるかわかりませんが、兎に角自分の体は他に代えられるものではなく機会は一度ですのでこれは皮肉でも何でもなく、ご希望を正直に言ってもらえば良いのです。当科では、医者の都合を無理に患者さんに押し付ける事はしません。ただし、「どの医者の執刀を希望しますか?」などとこちらからお聞きする事はありません。入院中の病棟での担当医は、術者と同じ場合もあれば異なる場合もあります。(伊藤)

電子メールで、バイパス手術、弁膜症、胸部大動脈瘤手術、MICS手術(弁膜症、ASD,VSD)、その他相談を承ります。

cvs1@nagoya-1st.jrc.or.jpへ。(担当;伊藤)

得られた情報の範囲で、できるだけ正確にお答えしたいと思いますので、お気軽にお問い合わせください。氏名、生年月日をお知らせいただけば病院の患者IDを作成して初診予約も可能です。

手術見学をご希望の場合

 学生さんの場合、原則的に所属大学から総務課経由でお申し込みください。ドクターの場合、私伊藤まで上記アドレスに直接メールをください。業者さん経由で間接的に連絡されるだけでなく、是非直接疑問点等をお知らせください。MICS手術の見学に関しては、当初MICSを既に行なっているか少なくとも器具は揃えた先生に限定していましたが、現在は「実際ホントに学会で言っている通りなの?」と、ちょっと見てみたい場合でも受け入れています。

2009年~業績(雑誌掲載論文のみ。学会発表は省略)

  1. 伊藤敏明. HEART's Selection2. DES時代の冠動脈バイパス術に与えられた使命. 心臓 2009;41:101-5.
  2. 吉住 朋、伊藤敏明、中山雅人、阿部知伸、萩原啓明、河村朱美、砂田将俊. 大動脈縮窄症根治術後遠隔期に上行大動脈瘤および大動脈弁閉鎖不全を発症した一例. 胸部外科 2009;62:1170-3.
  3. 中山雅人、伊藤敏明、阿部知伸、山名孝治、河村朱美、吉住朋、砂田将俊.感染性心内膜炎を合併した心室中隔欠損および大動脈弁閉鎖不全症の一例. 胸部外科 2009;62:822-5.
  4. Ito T, Abe T, Yamana K, Yoshiazumi T, Kawamura A, Sunada S. Foldback technique for aortic anastomosis of free right internal thoracic artery in coronary artery bypass grafting. Gen Thoracic Cardiovasc Surg 2009;57:678-80..
  5. Abe T, Ito T, Sunada M, Yoshizumi T, Kawamura A, Yamana K. Transapical aortic cannulation via left lateral thoracotomy for descending thoracic and thoracoabdominal aortic surgery. Gen Thoracic Cardiovasc Surg 2009;57:605-8.
  6. 中山雅人、伊藤敏明、阿部知伸、山名孝治、河村朱美、吉住朋、砂田将俊. 心房中隔欠損と肥大型心筋症を合併したNoonan症候群. 胸部外科 2009;62:535-7.
  7. 吉住朋、伊藤敏明、中山雅人、阿部知伸、萩原啓明、中山智尋. 大動脈弁逆流を伴う未破裂Valsalva洞動脈瘤に対する弁形成、パッチ閉鎖術.胸部外科 2009;62:219-21.
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