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詳細な診療情報

造血細胞移植(5)

当院の治療

この分野における当院の特徴は昭和30年代に骨髄移植を日本で初めて行って以来、常に移植治療の発展に努力してきたことです。詳しくは、高度先進医療の造血細胞移植センターのページをごらんください。

白血球の血液型HLAが適合したドナーからの移植のために1978年に最初の無菌室が1床設置され始まりました。1991年には骨髄移植センターができ、現在は41床(うち無菌治療室21床)の造血細胞移植センターが東病棟の8階にあります。

どのように治療するのか白血病を例に説明します。

血液は骨髄で作られますが、白血病になると骨髄は白血病細胞で占有され、正常の血液すなわち白血球(バイ菌と戦う)、赤血球(酸素を運ぶ)、血小板(血を止める)が減少し、感染症、疲労、出血の症状が出ます。

これらの症状に対して治療(抗生剤、輸血など)を行うとともに、白血病細胞を殺す抗がん剤を受けます。

これにより、骨髄から白血病細胞がなくなり、正常な血液が回復してきます。

しかしこれを治癒とはいいません。ここで治療をやめると再発してくるからです。

通常半年間化学療法を繰り返し、白血病細胞を駆逐します。

それでも半数は再発してくることがわかっています。このような患者さんが移植を受けることになります。

最近は前処置を弱めた、所謂ミニ移植も行われ、60歳以上のご高齢の患者さんにも移植が行われるようになりました。また白血病だけでなく、再生不良性貧血、発作性夜間血色素尿症、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫に対しても移植は行われます。

また、近年はいくつかの取り組みも行っております。

まずは移植中や退院後の身体機能維持や精神的安定を目的として、移植患者さん全員に対するリハビリテーションの介入を行っております。移植患者さんの体力、筋力の向上は早期の退院へとつながっております。

退院後の取り組みとしては移植中に慢性GVHDを合併している患者さんは、主治医による定期外来とは別に、GVHD外来を受診して頂き、全身の評価を行うとともに、治療方針決定も行うこととなっております。

また、移植後長期経過してから発症する晩期合併症の管理に対しては、移植後フォローアップ外来を設けており、移植後も長期にわたり患者さんの全身管理をしっかり行い、長期生存の土台作りを行っております。

当院の治療実績

現在まで施行された移植の数は内科約1,000例、小児科約600例、これまでの累積移植件数は合わせて1,600例におよび、最近では年間約80件の移植をセンターとして実施しています。

その成績は同胞間骨髄移植の場合、急性白血病第一寛解期移植の無病生存率が75%、第二寛解期以降の寛解期で50%程度となっております。また再生不良性貧血の移植数も多く、8割近い患者さんにおいて移植が成功しています。

非血縁者間造血幹細胞移植では重症の移植片対宿主病(GVHD)やTMAなどの合併症が約10~20%に発症し予後に影響しますが、最近では移植技術の向上により頻度は減ってきており、急性白血病症例の無病生存率は同胞間移植と変わらなくなってきています。

同種末梢血幹細胞移植、臍帯血移植の成績も良好で、患者さんやドナーさんのご希望に応じた移植法、採取法を選択できます。

VI.GVHD及び移植後の合併症に関する事

今日までの非血縁者間骨髄移植やHLA一座以上不適合血縁者間骨髄移植から得られた経験より、前処置や免疫抑制剤の調整で重症GVHDは徐々に減少してきており、今後はHLA適合度や年齢、対象疾患や移植時病期等を考慮に入れつつ、移植後の免疫不全状態を遷延させること無く、又白血病に対する移植の場合は移植後再発を助長させることの無い、症例毎の至適GVHD予防法を選ぶ時代になってきています。

その他の合併症として、サイトメガロウイル、アデノウイルス感染症等はガンシクロビルやシドフォビルといった抗ウイルス剤の導入により(後者は未だ我が国では健保の適用にはなっていませんが)、又前者においてはサイトメガロウイルス抗原血症の定期的測定による早期診断が可能になってきたこともあって、次第に生命予後に対する脅威では無くなってきています。

肝中心静脈閉塞症、血栓性微少血管障害等も移植時の患者の状態、移植前治療薬、免疫抑制剤等との関連が明らかになるに連れ、あらかじめそれを回避するような手だてを講ずるようになってその頻度は減ってきているように思われます。

VII.同種骨髄移植患者の移植後QOL.

生存者のQOL(生存の質)をKarnofsky Score(健常者を100%、死亡を0%とした尺度です)で評価する限りでは移植後1年以上経過した患者の大部分が80%以上のScoreを有しています、が不妊や精神的後遺症、結婚や就職の問題等まだ解決されなければならない事柄は残されています。

こうした移植後のQOLについて既に欧米では多数の報告例が有りますが、我が国での厚生省研究班の調査によれば、移植後のQOLを悪くする可能性のある因子として1)全身放射線照射(有り)、2)GVHD(慢性GVHD有り)、3)移植の種類(同種骨髄移植)、4)年齢(高年齢)が挙げられおり、これらが複合して白内障や性腺、内分泌機能等器質的、機能的後遺症から精神的、社会的後遺症までを規定するものと考えられています。

ただ、こうした移植後の問題は年数を経るに従って改善するものと、新たに出てくるものがあり、正常に近い社会生活を営むことができるようになっても、定期的なフォローアップが必要であることが明らかになっております。

おわりに

造血幹細胞移植療法は近年幹細胞源が多様化してきていますが、その対象疾患の主要なものが骨髄の異常に基づくものである関係上当分は同種移植(骨髄、末梢血、臍帯血)が主体をなすものと思われます。

そして本移植法はドナーに臓器欠損等の後遺症が残らず又、脳死問題等の圏外に立つ点で、同じ移植と名の付く治療法の中でも特異な位置を占めています。

ただ、骨髄採取における麻酔や腸骨穿刺に伴う事故も複数例報告されており、末梢血幹細胞採取も、骨髄採取とは又別 のドナーの負担がありますので、採取チームの重圧と責任は極めて重いと言えます。

他方、従来廃棄される運命にあったものを利用する臍帯血移植は、生着に必要な患者体重当たりの造血幹細胞数が一個体からは大人の患者を対象とするほど十分に得られないこともありますし、以前は移植のドナーが見つからない場合の代替療法として考えられていました。

しかし臍帯血移植は近年の他の移植に匹敵するまでとはいかないまでも劣らない成績へと向上しており、また使用したいときに使用出来るという利点があり、研究途上の造血幹細胞の体外増幅技術と結びつけば体重の多い人を対象とすることも可能になるであろうしその時には現行の造血幹細胞移植療法の姿を大きく変えるものと思われます。

図らずも幹細胞とともに輸注され、GVHDの担当細胞として制御の対象となっていたドナー由来のリンパ球系細胞の役割も“anti-host(対宿主)”として幹細胞の生着や二次癌発生に対する監視に必要であることや、白血病における移植では移植後の白血病再発を抑止する働きがある(graft-versus-leukemia, GVL)ことが明らかになりつつあります。

そしてこれらリンパ球の積極的な役割は移植後の白血病の再発に対するDLTとして既に臨床応用されるとともに、体外にて免疫学的、遺伝子学的操作を加えた細胞の移植という真の細胞移植療法(Cell-therapy)への道筋を示しつつあります。

これらを組み合わせそれぞれの患者に最も適切な造血細胞移植療法が行い得るシステムが構築されようとしています。