診療科・部門

女性泌尿器科

 

尿もれや骨盤臓器脱などの治療を腹腔鏡・ロボット・経腟的手術などで低侵襲に行い、生活の質を高めています。

 女性は比較的若い年代から尿もれがあり、中高年のQOL(生活の質)疾患として尿もれや骨盤臓器脱は非常に数が多く、外出、仕事、運動の支障となっています。

当科は、1986年に日本で初めて名古屋大学医学部附属病院にできた「女性尿失禁外来」の流れをくみ、2006年4月からは「女性泌尿器科」という独立した診療科として、尿失禁や骨盤臓器脱などに取り組んでいます。女性泌尿器科(ウロギネコロジー)のパイオニア的存在で、以下の手術が可能です。

 泌尿器科と女性泌尿器科の外来は完全には分けられていませんが、トイレは男女別で、女性患者さんの割合が高いので、抵抗感なく受診していただけます。

 

骨盤臓器脱の腟から行う手術:#2から#8はメッシュを使用しない手術(NTR)

#1.TVM手術(アップホールド型、PTFE製メッシュを使用)

#2.腟式子宮全摘術(VH)

#3.腟壁形成術

#4.腟断端挙上術としてMcCall改良法、McCall法、Shull法

#5.腟断端挙上術として仙棘靭帯固定術(SSLF)

#6.マンチェスター手術

#7.会陰縫縮術

#8.腟閉鎖術(Le Fort、全腟閉鎖術)

 

骨盤臓器脱のお腹から行う手術:

#9.腹腔鏡下仙骨腟固定術(LSC、ポリプロピレン製メッシュを使用)

#10.ロボット支援仙骨腟固定術(RSC、ポリプロピレン製メッシュを使用)

 

腹圧性尿失禁の手術:

#11.TOT手術(ポリプロピレン製テープを使用)

 

過活動膀胱の手術:

#12.SNM(仙骨神経刺激療法)

#13.ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法

 

当科LSC/RSCの特徴

1)ダブルメッシュ法(シングルメッシュ法ではありません)。

2)3ポート式(3か所の穴)で行います。LSCは臍部12mm、左12mm、右5mmのトロッカー、RSCは臍部12mmに8mmダビンチ用を重ねて、左右とも8mmダビンチ用のトロッカー(通常LSCは4か所の穴、RSCは5か所の穴(アシストポートを併用)で手術をしますが、当科では腟から挿入した自在に固定できる子宮操作鉗子を使用し、さらにRSCでは縫合に必要なメッシュ、縫合糸、ガーゼを、袋にまとめてお腹へ挿入、終了時に袋を回収する方法のため、LSC、RSCのいずれも3ポートで安全な手術が可能です)。

3)前壁メッシュは10か所、後壁メッシュは4か所、子宮頸部は6か所、岬角部は2か所の縫合固定が基本です。

4)メッシュを被う腹膜をできるだけ多く残し、腹膜どうしを細かい間隔で縫合することで、術後癒着やヘルニアの発症を防ぎます(腹膜を直腸漿膜や脂肪組織にも縫合する高位腹膜縫合は、手術時間は短縮しますが、術後嵌頓ヘルニアなどが報告されていますので、当科では行いません)。

5)両側卵管を切除して卵巣癌のリスクを低減させます。

6)卵巣腫瘍や子宮筋腫を伴う方でも同時に切除可能です。

7) 小腸瘤を伴う完全子宮脱などは再発リスクが高いことから、遅延吸収糸で弛緩した腟壁を縫い縮めてから、メッシュを縫合固定し、さらに固定数を追加します。

RSC手術時に必要なメッシュ、縫合糸、ガーゼをまとめてお腹の中に入れたところ

 

当科NTRの特徴(下垂が軽度な子宮脱(子宮筋腫が主体)でも手術できます)

1)子宮脱が重症になると腟の外に子宮が完全に出て、腟内に戻しても、すぐに出てしまう状態になります。このような状況の完全子宮脱も上記手術の#2.腟式子宮全摘術、#3.腟壁形成術、#4.腟断端挙上術、#7.会陰縫縮術を組み合わせることで、術後の再発率を減らすことができます。NTRでは術後再発率が10-30%程度と言われていますが、#4.McCall改良法は手術手技が難しいため、また健康保険の関係から#4.腟断端挙上術を併用しても、手術手技(腟式子宮全摘および腟壁形成術よりも高い手術点数)を全く加算することが出来ない問題もあり、腟断端挙上術を省略して手術を終了する施設が多数あります(再発率低減のために腟断端をどのように挙上するのかについては、是非とも担当医にお尋ねすることをお勧めします)。

2)子宮を全て腟から摘出する場合は、症状の軽い方を含めて腟断端挙上術が併用されておりますので(腸切除後などで癒着が激しい例は除きます)、再発率の低減が見込まれます。経腟的に卵管を切除して卵巣癌のリスクを低減させます。

 
左:経腟的に摘出した子宮、両側卵管
右:経腟的に摘出した頚部筋腫を合併した子宮、両側卵管

 
左:経腟的に摘出した多発性筋腫を合併した子宮、両側卵管
右:経腟的に摘出した子宮、右側傍卵巣嚢胞、両側卵管、後腟壁の粘膜

3)腟脱に対して腟閉鎖術やメッシュを使用した手術(LSC/RSCやTVM)を勧められる症例でも、#3.腟壁形成術、#5.仙棘靭帯固定術(SSLF)、#7.会陰縫縮術を組み合わせて、腟を閉鎖せずに、メッシュを使用しない手術で対応できます。

4)不全子宮脱にはマンチェスター手術が適応できます。できるだけ長く子宮頚部を切断し、仙骨子宮靭帯と基靭帯をそれぞれ別々に子宮頚部に縫い付けるため、新たに作成した子宮頚部は腟上方に移動し(頚部の傾きと腟の傾きが鋭角になり、お腹に力が入る時は頚部が腟に蓋をする状態となり子宮が下垂しない)、新たに作成した子宮頚部を腟壁で被うため(基本はStrumdorf縫合を8か所に施行し、腟壁が引っ張られることで)、腟壁の下垂感も改善します。軽症な膀胱瘤を合併した不全子宮脱はマンチェスター手術のみ(手術時間は約30分)で対応できます。マンチェスター手術の出血は少量で、子宮頚部が延長した女性には特に有用で、閉経前であれば、術後も月経があります。閉経後で子宮頚部の延長がなくても適応可能で、前腟壁形成を併用しなければ、性交渉の問題もありません。

5)軽症の子宮脱や膀胱瘤、直腸瘤(軽症ならば通常は骨盤底筋訓練で対応)の症例で、
・骨盤底筋訓練では治療効果が十分でない
・リングペッサリーの使用は痛みや帯下などで避けたい
・子宮の摘出には抵抗がある
という方には、#5.仙棘靭帯固定術(SSLF)で低侵襲な手術が可能です。腟壁の基本構造を温存して手術できるので、性交渉の問題もありません。

 

その他の特徴(腎癌、前立腺癌の手術もできます)

1)最適な手術方法の他に、ご希望に沿って第2、第3の選択枝をご提示できます。骨盤臓器脱に対する手術に専門医資格は必要ではありませんが、日本泌尿器科学会泌尿器科指導医・専門医および日本産科婦人科学会産婦人科指導医・専門医の両方を取得することは簡単なことではありません。当科は両方を合わせて取得しており、骨盤臓器脱手術のほぼすべてに精通し、かつ執刀可能であるため、手術方法を比較しながらリスク、メリットを手術経験も含めて説明が可能です。当科はメッシュ手術も得意ですが、メッシュのメリットを強調してメッシュ手術に特化する施設ではありません。

2)骨盤臓器脱の再発やメッシュ露出などの合併症でお困りの方も、当科へご相談してください。一旦露出したメッシュは経過観察では治ることはありませんが、自施設で対処ができないなどの理由で経過観察されている例もあります。他院では対応できないメッシュ除去、再手術の対応もご相談下さい。

3)当科は経腟的手術に慣れているため、子宮脱手術時に卵巣腫瘍も合併切除可能で、さらに腹腔鏡手術時に切除した臓器を経腟的に摘出することもできます。例えば腎癌の腹腔鏡下腎摘除術は、通常はお腹に開けた穴の1つを6cm程度に大きくして、腎臓を経腹的に摘出しますが、女性では腟から腎臓を摘出することもできます(お腹の傷が小さくなり、術後の疼痛は減少します)。

 

  
左:袋に入った腎臓を子宮の裏側に移動しているところ
中:袋に入った腎臓を腟から取り出す前
右:袋に入った腎臓を腟から取り出した後

4)当科でも前立腺癌のロボット支援下前立腺全摘除術(RARP)が可能です。前立腺癌術後の早期尿禁制に影響するARVUS、骨盤底筋訓練は有名ですが、当科で女性に指導している骨盤底筋訓練を男性にも術前から行い、RARPにTOT(女性腹圧性尿失禁手術)の再建を応用することで、退院時(退院早期)の尿禁制が可能となります。

5)当科のTOTはTVTの軌道で中部尿道を支え、TVTよりも短いテープ(約60%の長さ)を挿入しますので、尿禁制率が高く、合併症の低下が期待できます。

 

骨盤臓器脱手術の問題点

1)骨盤臓器脱手術は泌尿器科医、あるいは産婦人科医が執刀することが多く、最近はウロギネコロジーセンターを掲げている施設もあります。一般的には産婦人科と泌尿器科の両方の手術に精通した医師が少ないため、
・LSC/RSCなどの腹腔鏡手術やロボット手術が得意
・TVMなどの経腟メッシュ手術が得意
・NTRが得意
などによって、次のような手術が施行される傾向があります。これらの例は適切な手術が遂行できないため、患者に手術を合わせるのではなく、手術に患者を合わせる状況です。

①性交渉のない高齢者や、腹圧がかかる作業(重量物の挙上など)の不要な方にもLSC/RSCを適応する
②軽度な膀胱瘤で、子宮脱や直腸瘤主体の骨盤臓器脱にもTVMを適応する
③再発症例に同じ手術方法を繰り返す(手術方法を変更した方が良い場合が多々あります)
④全身状態が良い方に腟閉鎖術を勧める(腟閉鎖術は、腟壁粘膜を薄くかつ完全に取り除き、前腟壁と後腟壁を丁寧に合わせると、再発率が非常に少ない手術です。術式は簡単ですが、排便や排尿の状態は改善しません。)

2)手術時間が短いことを宣伝するために、LSC/RSCにシングルメッシュ法、少ない縫合固定数、子宮温存などで手術操作を省略する(長期的には再発リスクが増加するため、当科では採用していません。米国の骨盤臓器脱手術を多く扱う施設から発表されたLSC対RSCのRCTで、手術時間はLSC2時間半、RSC3時間程度で、両者の手術成績に違いはありませんでした。肥満・癒着の有無などで手術時間は増減しますし、“手術時間が短い=手術が上手”の傾向はありますが、必要な操作を省略すれば、この関係は成り立ちません)。

3)軽症の子宮脱に対しては有効なマンチェスター手術(低侵襲かつ低再発率、手術点数が低い)や、完全子宮脱に対して有効なVH+腟壁形成+腟断端挙上+会陰縫縮術(手術時間の割に手術点数が高くない)の代わりに、手術点数が高いメッシュ手術(LSC/RSC、TVM)が行われる。

 

主な疾患と手術、入院期間

  • 腹圧性尿失禁はTOT/TVT手術で、2泊3日
  • 不全子宮脱はマンチェスター手術で、2泊3日
  • 不全子宮脱+膀胱瘤はマンチェスター手術+前腟壁形成術で、3泊4日
  • 不全子宮脱(+直腸瘤)はSSLF(+後腟壁形成術+会陰縫縮術)で、2泊3日
  • 不全子宮脱+膀胱瘤はSSLF+前腟壁形成術で、3泊4日
  • 腟断端脱(+膀胱瘤+直腸瘤)はSSLF手術(+腟壁形成術+会陰縫縮術)で、3泊4日
  • 子宮脱はVH+腟壁形成術+腟断端挙上術+会陰縫縮術で、4泊5日
  • 子宮脱を含む膀胱瘤(+直腸瘤)はTVM(+後腟壁形成術+会陰縫縮術)で、4泊5日
  • 子宮脱または腟断端脱はLSC/RSCで、5泊6日

#上記は通常の入院期間で、認知症合併では入院日に手術し、早期退院とします(例、TOTは1泊2日)。術後の排尿・排便に問題が無/有により、入院期間の短縮/延長があります(例、TVMは3泊4日、LSC/RSCは4泊5日、VHは5泊6日)。

主な疾患

  • 過活動膀胱
  • 腹圧性尿失禁
  • 骨盤臓器脱
 
 
 
 
 

診療科・部門 一覧にもどる

ページトップへ戻る

日本赤十字社 愛知医療センター